第17回オープンスタジオは意外にも初めての都内での開催となります。
今回は本格的なプロ仕様のレコーディングスタジオ、Hi_SYSTEM recording studioが会場となります。
9帖のコントロールルーム、3帖のレコーディングブースという構成となっているスタジオ。
このスタジオはオーナーが自宅新築のタイミングで造ったプライベートスタジオですが、外部の方への貸し出しもされています。
スタジオの特徴は、なんといってもオーナーこだわりの機材!(機材リスト参照)
そしてその機材の性能を100%発揮させることができるスタジオの音響設計、電気設備、インテリア等、当社のノウハウの多くが詰まったスタジオとなっております。
今回のオープンスタジオでは、本格的な機材で録音した音源を体験したり、レコーディングの体験が可能です。
また、遮音性能の体験も可能です。(注 本スタジオではドラムを使った遮音性能の確認はできません)
趣味でDTMをやられている方、プライベートDAWスタジオをご検討中の方、本格的なスタジオの音を是非ご体験ください。
会場は個人さまの住宅になり、駐車スペースに限りがございますので、出来るだけ公共交通機関をご利用ください。
お車の場合は近くのパーキングをご案内しますので、お知らせください。
混雑を避ける為にお時間など、ご調整させて頂きますのでご参加をご希望のみなさま、一度ご連絡を下さいませ。
最寄駅はJR京浜東北線 東十条駅より徒歩15分程度です。
住所等の詳しい情報につきましては、電話・メール等でお問い合わせ下さい。
開催時間 10時~17時
◇機材リスト◇
[condenser microphone]
NEUMANN U87Ai
Peluso Microphone Lab P-67
Brauner Phanthera
Brauner Phantom Classic
AKG C414-XLII
AKG C414-XLS
AKG C451B x2
Earth Works SR25 x2
Electro-Voice CARDINAL
Lauten Audio ST-221 Torch x2
Blue Blueberry
[ribbon microphone]
Blue Microphone Woodpecker
[dynamic microphone]
Blue Microphone enCORE 100i
Electro-Voice RAVEN
SENNHEISER e906
SENNHEISER e935
SENNHEISER MD421II
Shure Beta57A
Shure SM57 x3
Shure SM58
Shure SM7B
SONTRONICS HALO
[HA / D.I.]
api 512C x2
Avalon Design U5
Avalon Design V5 x2
EarthWorks 521ZDT x2
Millennia HV-35 x2
Neve 1073 LB x2
Rupert Neve Designs Portico517
Tech21 Sans Amp RBI
Universal Audio 2-610
e.t.c.
[EQ]
api 550A x2
Maag Audio EQ2 x2
SSL 611EQ x2
[DYN]
ART PRO VLA
ART PRO VLA II
Empirical Labs Distressor (EL8-X) x2
FMR Audio RNC500 x2
SSL 611DYN x2
Universal Audio 1176LN
[I/O]
Avid HD I/O-8x8x8
RME HammerfallDSP MultifaceAE
[DAW]
Avid ProTools|HDX system
[PlugIn]
Antares Auto-Tune 7
Celemony Melodyne Editor 2
McDSP Classic Pack HD v5
Sonnox Oxford Sonnox Smart Bundle
Waves Mercury Bundle
[computer]
Apple
Mac Pro 3.7GHz Quad-core Intel Xeon F5
RAM 16GB
[guitar amp]
Egnater Renegade
Egnater Vengeance
Egnater Tweaker
Marshall VintageModern2466
Marshall JVM210H
Orange TH-100
VOX AC30C2-GRB
[guitar amp cabinet]
Egnater Vengeance 412B
Egnater Tweaker-112X
Marshall Vintage Modern 425A
Orange PPC412
第17回オープンスタジオ、無事終了しました。
オーナーの日暮さん、エンジニアの玖島さん、あいにくの天気にも関らずご来場頂いた皆様、有難う御座いました。
今回のオープンスタジオではこれまでとは異なり、本格的なプロ仕様のDAWスタジオでの開催となりました。
ご存じの通り、近年ではレコーディング機材のコンパクト化に伴い、大型のレコーディングスタジオが次々と姿を消す中、本件のように10帖にも満たないコンパクトなスタジオが求められるようになりました。
しかしスタジオのコンパクト化は、定在波をはじめとした様々な音響的問題点を内包することとなり、玉石混合のコンパクトスタジオが溢れることとなりました。
そこで我々は、理想的なコンパクトスタジオのあり方=リファレンス とは何か。
この命題に対する考えや利用者が求めていることなどを多くの施工事例を通して紹介していきたいと思っており、今回がその第一弾となります。
それではオープンスタジオ当日の様子についてご紹介します。
当日は3組のお客様が来場されました。
1組目はご自宅の新築に伴い、バンドリハーサルができるスタジオを検討中のF様。
本スタジオは歌、ギター録りに必要な遮音性能が求められたため、バンドの音圧には対応できません。
それでも、エレキギターの音が外でどれだけ聞こえるかを確認し、自身のご計画の参考にされたようでした。
2組目は埼玉県でバンド演奏の出来るカフェを計画しているA様。
以前の宇都宮でのオープンスタジオにも来られた方です。
具体的にはまだ先の計画ですが、出来上がるのが楽しみですね。
3組目は自宅敷地内にスタジオ専用の別棟を計画中のE様。
本スタジオと同じくDAWスタジオを計画されており、この日はエンジニアの方をお連れしておりました。
本スタジオはこの規模としては珍しくラージスピーカーを導入している他、オーナーこだわりの機材が満載ということもあり、終始感嘆されていたのが印象的でした。
その後はオーナーの日暮さん、エンジニアの玖島さんも交えて、本スタジオについての思いや経緯、コンパクトスタジオについての考え方などについて対談しました。
対談は2時間以上にも及びましたので、その模様は追ってご紹介させていただきます。
次回以降は本スタジオの音響特性の解説、スタッフブログ、対談の報告など、盛りだくさんの内容でお送りします。
今回初の試みとしてDAWが主用途のスタジオで開催したOpenStudioに参加しました。
Hi_SYSTEM recording studioは今年の6月に家具の作図を担当した物件で今まで実際に現場へ伺う機会がなかったため、お伺いできる機会を逃すまいと思い参加させていただきました。
Hi_SYSTEM recording studioは小物やサインひとつとっても 細部まで施主のこだわりを感じることができるスタジオです。
私が携わらせていただいた家具にも、日暮さんのこだわりが込められています。
スタジオ完成当初にもオリジナルのエンジニアデスクを作成していましたがそのデザインのまま、稼働していくうちに増えた機材も収納できて、より今の使い勝手にあわせたデスクを改めて作ることになりました。
日暮さんの希望は
*脚を入れるスペースを確保して、88鍵のキーボードは天板の下にスライド式に納めたい
*天板に固定されているスピーカー台をもっとガッチリ固定したい
*でもスピーカー位置と高さは現状を維持したい
*ドングルを収納する鍵付きの引き出しが欲しい
*左右のラックを収納したときデスクとの出と揃えたい
*でもディレクタースペースは確保したいから現状よりあまり奥行きを深くしたくない
…など盛りだくさん。
しかしHi_SYSTEM recording studioは住宅内のコンパクトスタジオなため、もともとスペースが限られています。それに加え既に完成しているパネルなどの造作に緩衝しないようにしなければならないため平面的・高さ的に余裕はほとんどありませんでした。
その中でこれら日暮さんの希望をどうやって実現していくか、何度も頭を抱えながら検討することとなりましたが“限られたスペースの中でいかに納めるか”と考える作業は楽しんで取り組めました。
最初は「こんな収納があったら面白いな」と冗談半分で考えたアイディアが採用され、だんだんと実現されていく過程はとてもワクワクするものでした。
今回参加したことで、完成した現物を見て、触って動かして、日暮さんの生の声も聞くことができて、お客さんから発信された”こだわり・やりたいこと・アイディア”を我われ設計者や各専門家が知識や技術面から提案し、一体となってイメージを具現化していくすばらしさと幸せをかみしめることが出来ました。
はじめまして。Hi_SYSTEM recording studioのオープンスタジオに参加しました
アコースティックデザインシステムの田名部(たなぶ)です。
私は趣味でDTMをやっていますが(キックの音作りで煮詰まっています)、
今回のオープンスタジオはプロ仕様のレコーディングスタジオということで、
「普通の住宅地にあるレコーディングスタジオなんて狭くないのか?」とか、
「プロ仕様と言ってもやれることは限られるのではないか?」とか、
「機材進歩が著しいDTM業界の、スタジオの使い勝手はいかがなものか?」とか、
たくさんの疑問と憶測とワクワクを持って参加しました。
ちなみに私の自己紹介を書きますと、今年6月に転職し、音楽好きには自信がありますが音響設計に関してはまだまだ駆け出し勉強中で日々悪戦苦闘しております・・・。
学生時代にバンドを組んでギター・ベース・ドラム・弦バス・PAをかじり、今は一人で曲が作れるDTMで遊んでいます。
サンレコをこよなく愛しており、この会社を知ったのもサンレコのお陰です。
さて当日の感想として思ったこと・勉強になったことは数多くありましたが、このスタジオの電源についてとモニター環境についての2つに絞り、感想を書こうと思います。
まず、電源についてです。
このスタジオの電源系統は、スタジオ専用分電盤から10系統(ステップダウントランス経由のもの含む)あり、その全ての配線材はCV-S3.5sqを使用しています。正直、電気屋さん泣かせの極太配線材です。
電源コンセントはオーディオ専用のものにはホスピタルグレードのコンセントが採用されており、また系統ごとに色分けされ、どの系統のものかひと目で分かるようになっていました。
やはり上質な電源環境が、後述する機材のチョイスや音作り、作業効率にまで大きく影響しています。
また、デスクの左右にあるラックケースには、床(壁?)からCV-Sの電線が直接出ていました。左右のラックケースは合計48U分の機材を収納しています。この、48U分の機材量とそのチョイスが、僕は非常に勉強になりました。(機材リスト参照)
今の時代、それほどスペース的に余裕のないコンパクトスタジオにどの機材をどのように使うか というのは、非常に難しい問題です。機材が邪魔ならプラグインでも良いのでしょうが、プラグインには絶対にない、アウトボードの良さがあることを、オーナーは経験上知っているのです。アウトボードは、「古き良き機材の音を知らずに音作りをする若い人たちに対して、この機材の音は知っておいてほしい、使ってほしい と思う機材を選んだ」という、オーナーの経験と気持ちから厳選されたものです。
と言っても、48U分の機材を狭いスタジオで瞬時に使うにはスペースが足りません。
そこで当スタジオは、ラックケースにはキャスターが取付けられ、引き出しを開けるようにラックケースを移動させ、ツマミを動かすことが出来るような工夫が施されています。
オーナー曰く「自分が経験したレコーディングで得たあらゆるムダを省き、作業効率を重視したらこうなった」とのことでしたが、モチベーションを下げずに、いい音をすぐ録るために必要なものや工夫が、ラックケースにぎっしり詰まっていました。ラックケースをスライドさせれば、手の届く位置に使いたい機材があるという、このスタジオ独特の収納方法に感心しました。
「でも、電源が良いから、どの機材を選んでもほとんど正解な音作りができる」ともおっしゃっていました。
いくら音楽が好きな人が高い機材を揃え、新築でスタジオを造ったとしても、良い電源を準備しなげれば良い音にはならないし、仮になったとしても、それが本当に良い音かどうか判断しにくいと思います。
音作りの効率だって下がります。良い電源を準備することが、洗練された作業の大前提になっているんだと感心しました。
次に、モニター環境についてです。
僕はコンパクトスタジオの音なんて、良いニアフィールドモニター用のスピーカをしっかり設置しさえすれば十分だろうと思っていました。
このスタジオの響きを聴くと、とにかく締まった音で、キックやボーカル、シンセ、ハイハットなどの音が気持ち良く分離していて、何の音が邪魔しているのか直感的に分かりやすいと感じました。まさしくスタジオの音だと思いました。意図的に吸音している箇所は正面の吸音パネルだけで、部屋の響きが結構混ざっているように感じますが、それが全く邪魔しておらず、疲れを感じさせない、自然な響きでした。要は、僕の考えは簡単に打ち砕かれました。やはり硬い壁や床で囲まれた空間は、上質な響きになります。それが適度に混ざることで、疲れにくい響きの中で作業できるのがいいなと思いました。
また、吸音パネル裏面に設置されたLine6のラージスピーカがとても秀逸でした。このスピーカはSR用のスピーカですがDSPでリスニング用の特性に変えてスタジオモニターとしても使えるスピーカらしく、大規模なSRがあるライブハウス等を想定し、低音確認用として用いるこのスピーカーの音は、一瞬で空間をライブハウスにしてしまいます。しかも、ローからハイまでごちゃ混ぜに鳴っているのではなく、かっちりと分離していて、音圧も感じます。ニアフィールドモニターでは絶対に出来ない出音の確認作業が出来るのです。
曲作りはニアフィールドで十分と思っていた僕にとって、これは衝撃でした。コンパクトスタジオでも、防音室造りのノウハウが詰まったスタジオなら、ラージスピーカーだってちゃんと鳴るという確たる証拠を得ることが出来ました。
他にもたくさんの工夫がありましたが、まとめますと、新築であれリフォームであれ、今の時代に合ったレコーディングスタジオの在り方を知ることが出来て、とても勉強になりました。リスニングのスペースや収納スペースの制約がある中で、良い響きと作業効率の追求、モチベーションを下げない工夫を突き詰めた結果が、このスタジオであると思います。防振2重構造で遮音は出来ますが、部屋の響きは部屋の形と素材で決まりますし、電源や家具・収納など、防音をすること以外に考えなければならない事がたくさんあります。その全てを詰めていけば、たとえコンパクトスタジオでも目的や用途によっては商業スタジオ以上のパフォーマンスが発揮できます。
このスタジオは間違いなく大規模スタジオにはない魅力的なスペックを持ち合わせた次世代スタジオの一つの形であり、このようなスタジオがもっと増えて音楽が好きな人にとって身近な存在になれば、音楽の未来も開けるのかなと思いました。
第17回オープンスタジオの会場となったHi_SYSTEM recording studio(ハイ・システム レコーディングスタジオ)は、作曲家/アレンジャー/ギタリスト/エンジニアと幅広い顔を持つオーナーの日暮和広さんが2013年にオープンさせた、完全プロ仕様のスタジオです。
新築戸建の1階に造られたこのスタジオは、7畳強のコントロールルームと、約3畳のレコーディングブースで構成されています。ドラム録りには非対応ですが、それ以外に関しては本格的な大型レコーディングスタジオと同等か、あるいはそれ以上のクオリティを目指して、ありとあらゆる部分にオーナーの情熱と工夫が注ぎ込まれています。
主な特長は以下の通りです。
・コントロールルームは、エンジニア席/ディレクターデスク/クライアント用ソファを確保し、大人7名が余裕で使用可能
・ニアフィールドモニター2組と、この規模のスタジオでは珍しいラージモニターを設置(吸音クロスの内側に隠れている)
・隠蔽配線を含むすべてのラインケーブルをMOGAMI 2534で統一
・分電盤から直接200V電源を引き込み、専用ステップダウントランスを経由して117V/100Vを供給
・電源周りのケーブルはFUJIKURA CV-S3.5で統一
・定番から個性派まで20種類以上が揃ったマイク
・ヘッドアンプ、EQ、ダイナミクス系の充実したラインナップ
・主なアウトボードは2ch分ずつ用意され、効率的なA/B比較が可能
・ギターのアンプ録りに関する設備は特に充実
・長時間でも居心地の良さを感じさせるインテリア
・小さいながらもさまざまな設備が整い、作業の疲れを癒せるロビー
これらの特長から、このスタジオがいわゆる小規模DAWスタジオの枠を大きく超えたポテンシャルを備えていることがわかります。
今回はそんなスタジオに込められた思いを、オーナーである日暮さん自身にインタビューしてみました。スタジオを造るにあたって多大な協力を得たというPAオペレーターの玖島博喜さん(TEAM URI-Bo)と、設計を担当したアコースティックデザインシステム草階拓也氏のコメントも交えてお届けします。かなり長いですが、スタジオ造りについて深く考えさせられる内容になっていると思います。
///////////
ーーこのスタジオを造る前は、どのような環境で音楽制作をしていましたか?
日暮:いわゆる普通の戸建住宅の一部屋に、機材を詰め込んで作業していました。当時は作家事務所に所属していて、コンペ用の楽曲を年間100曲単位で書いていたんです。曲を書いては仮歌を録り、の繰り返し。3日に一度はボーカルレコーディングをしていましたね。365日休みなく、1日16時間制作するという状況の中で、自分の生活空間を通過して第三者が入ってくることにストレスを感じたり、防音がなされていなかったのでミックス時に音量を出せないのもストレスでした。そもそも、部屋自体が音響のために作られたものではないので、鳴っている音が正解なのか不正解なのか、不正解ならどこが不正解なのかがわからない。つまり、何がゴールなんだろう?と思いながらやっていて、それがすごく不満でしたね。ですから、その後、家を建てる話が出てきたときには、当然スタジオを作りたいということになったんです。
ーースタジオの具体的なイメージはありましたか?
日暮:まずは生活空間と切り離して、先ほど話したいろいろな部分の環境改善をしたいと思いました。最初は本当にミニマムな感じで造りたかったんですけど、いろいろ構想を練っているうちに話がどんどん膨らんでいって、やるならやりきっちゃった方がいいだろうと。
ーー小規模スタジオの多くは、その「ミニマムな感じ」でやりくりしているところが多いと思いますが、そうではないものにしたかったのですね。
日暮:昨今、スタジオがどんどんコンパクト化して、機材も最少限化されていく中で、作家としてメジャーアーティストの制作現場に行っても、自分が現役でデビューしてバンドで活動していたときのスタジオの様相とは様変わりしているんですよね。当時はレコーディングっていうとワクワクしながら朝早起きしてスタジオまで行っていたのに、そういう感じがないというか……。スタジオと言ってもほんとに四角い防音の部屋に、ニアフィールドモニターが1組あって、ProToolsがあって、HAが1chあって、以上、みたいな。それも1つのスタイルだとは思うんですけど、かつてのスタジオが持っていたファンタジーの部分、キラキラした部分が感じられなくて、ずっと悶々としていたんです。そこから抜け出すきっかけをくれたのが、15年以上お世話になっている玖島さんでした。アコースティックエンジニアリングを紹介してくれたのが彼で、ラージモニターを入れようって言ったのも彼です。「ラージ入れないんだったら手伝わない」とまで言ってたかも。たぶん覚えていないと思いますけど(笑)。
草階:そういうコンセプトでスタジオを作るとなったときに、この規模でラージが入ってるスタジオってないよね?という話が出て、じゃあ入れましょうって玖島さんがおっしゃったんだと思います。我々としても、確かにそういうスタジオは面白いなというところで意気投合しました。
玖島:ラージを入れるという話になって、じゃあ何を入れるかというのですごく悩んだのは覚えています。そのとき、ちょうど良いタイミングでこのスピーカー(LINE 6 StageSource L2m)が発売になったんです。
日暮:これはそもそもSR用のスピーカーで、DSPでリスニング用の特性に変えてスタジオモニターとしても使うことができる。もともと隠して使うのが前提だったので、スピーカー自体は見えないから、デカい音で鳴れば何でもいいんじゃない?って最初は思っていたんですけどね。単なる脅かしというか。
玖島:もともとL3という1つ上の大きいタイプがあって、それを現場で使っていたんです。すごくフラットな特性の良いスピーカーなんですけど、何しろ大きくて、スタジオのサイズにはまったく合わない。そこへちょうど良いサイズのL2が出ることになって、これはどう?って薦めました。
日暮:それでデモ機を聴かせてもらって、これはアリだなと。ここに入れたタイミングでは、アメリカに次いで2番目の導入事例だと聞きました。LINE 6っていうブランドのイメージと価格で、スタジオモニターとしての選択肢に入っていないのはもったいないと思いますね。
ーーラージモニターを入れてみていかがですか?
日暮:まず、ラージモニターがあること自体が、かつてのレコーディングスタジオをイメージさせてくれてキュンキュンします(笑)。それはまさに自分が欲していた、スタジオのファンタジーの部分、キラキラした部分を象徴するものです。もちろんそれだけじゃなくて、サウンド的にも、ニアフィールドモニター2組とのキャラクターがはっきり分かれていて、作業の中でうまく使い分けることができています。具体的には、作曲からプリプロ~歌録りまでは、上から下まで今っぽい音が出るYAMAHA HS7で聴いて、ボーカルエディットに入ってからはFOSTEX NF-1Aでボーカルの表情をチェックして、仕上がったら最終的にローも含めた全体をラージで確認する、という具合です。
草階:ラージスピーカーを視覚的に隠すため、スピーカーの前にネット張りのパネルを設置しているので、高域部分は若干吸音されているかと思います。
それでも当初、飛び道具的な位置付けだったラージスピーカーがここまで鳴ってくれるというのは嬉しい誤算だったのではないでしょうか。
ーーデスク周りは今年の夏に一度作り直しているそうですね。
日暮:最初はデスクの上に88鍵のキーボードを置いていたんですけど、エンジニアにそれは必要ないというのを考えていなかった。あと、想定していたよりもアウトボードが増えてしまって、ラックのサイズが足りなくなった。それで、全部リサイズして作り直してもらったんです。このとき、iLokなどのドングルを収納する鍵付きのボックスも作ってもらいました。ここは外部にも貸し出すスタジオなので、盗難防止用ということで。ボックス自体もデスクに埋め込まれ、普段はディスプレイの下に隠れるようになっています。この仕掛けはかなり気に入ってます(笑)。
草階:デスクはこのスタジオにとって、アイデンティティそのものといってもいいくらい重要な位置付けでしたが、だからこそ後悔が無いように前向きな気持ちで作り直しました。収納ボックスのアイディアには我々も驚かされましたが、理由を考えると納得します。確かに必要、じゃあ、やりましょう!みたいな感じで、とても楽しかったですね(笑)それから、デスクを作り直すタイミングでスピーカースタンドの構造も変えました。以前と同様、デスクに固定したスタンドですが、共振を抑えるためにスタンド内に砂を詰め、台そのものが鳴りにくい構造としています。
日暮:さっき話したスピーカーのキャラクターの違いが、より鮮明になりました。あとは定位と、ローの明瞭さ、解像度が上がった感じがします。そしてもう1つ、出音の良さに大きく貢献しているのが、CRANE SONGのモニターコントローラーAvocetです。マスタリングとかで使えるレベルの、解像度がすごく高いDAを積んでいて、オーディオインターフェースからデジタルで送ってそれをアナログに変えて出しています。だから、ただスピーカー周りを似たようにセッティングしても、同じような音では鳴らないと思います。
ーーオーディオ的な品質を高める要因として、ケーブルへのこだわりも見逃せないところです。
日暮:隠蔽配線からアウトボードの結線、パッチケーブルまで、ラインケーブルはすべてMOGAMI 2534で統一しています。音質劣化につながる可能性を少しでも排除するために、マルチケーブルは使っていません。おかげでケーブルの量が半端なくて、100mのリールで3〜4本くらい買いました(笑)。ワイアリングはすべて玖島さんに手弁当でお願いしたので、コストを抑えることができました。
玖島:パッチ盤の後ろなんてすごいことになっていますよ。何百本ものケーブルが壁みたいに(笑)。
日暮:電源ケーブルはFUJIKURAのCV-S3.5です。壁までは当然ですけど、壁から機材までも全部統一して、そこも違う血を通さないという考え方を徹底しました。プラグはMARINCOで、壁コンセントはPANASONICのホスピタルグレードを使っています。そう言えば、ステップダウントランスも玖島さんが教えてくれたんですよね。値段と性能のバランスが良いって。
玖島:HATAYAという名古屋の業者の製品で、20Aと30Aを1台ずつ入れています。部屋と電源がちゃんとしていれば、あとはそこに何を乗っけるかという話なので、とにかくベースはしっかり作ろうと最初から言っていましたね。
日暮:小規模なスタジオをいろいろ見ていると、そのあたりのバランスが良くないところがあまりにも多いんです。防音設備も音響特性もまったく考えてないのに、いきなり100万円台のアウトボードがあったり、電源を家庭用の雑コンから引っ張っているのに、電源ケーブルは何十万のものを使っていたり。サウンドの仕上がりは基本的にかけ算だと思っていて、マイナス要素やゼロがあったらそれでもう終わりなんですよね。だから自分がスタジオを造るときは、少なくとも後からいじれない部分はとことんこだわりましょうっていうところからスタートしたんですけど、最終的に入口から出口まで全部こだわってしまいました(笑)。
ーー機材面では、小規模DAWスタジオの多くがプラグイン主体の音作りに傾く中、ここはハードウェアを多く導入していますね。
日暮:これもラージスピーカーと同じで、かつての大型レコーディングスタジオに対するオマージュです。特にAPI 500モジュールのおかげで、名機と言われる製品の数々をコンパクトに揃えられています。しかも、ほとんどを2ch分入れているのもこだわったポイントです。
ーーペアで揃えている理由は?
日暮:ボーカリストもエンジニアも慣れていて、最適なシグナルパスがわかっていればいいんですけど、大概の場合は手探り状態で始めて、良い組み合わせを探っていくわけです。そこで試行錯誤しているうちにテンションが下がってしまったり、予算や時間に余裕のないセッションだと、明らかに合っていない状態でも進めなきゃいけなかったりする。あるいは、そもそもそういう選択肢がないスタジオも多い中で、HAやコンプ、EQが2ch分ずつあれば、同じシグナルパスでマイクだけ変えた組み合わせを即座に試すことができます。そういうことが自由にできると、アイディアもいろいろ湧いてきたりするんですよね。クリエイティブなことをしながら、効率良く進められて、クオリティも上がるというのはとても大きなメリットです。
ーーマイクの種類がとても豊富なのも、そういう考え方に基づいているのですね。
日暮:NEUMANN U87AiやAKG C-414といった定番マイクから、ちょっとマニアックだけど素晴らしい音がするマイクを揃えています。中でも、EARTHWORKSのSR25というマイクはちょっと異色ですね。もともと測定用のマイクを出しているメーカーが作った楽器用マイクで、特性がものすごくフラットなんです。同じEARTHWORKSからHAも出たので、それも買いました。あるとき、その組み合わせでアコギを録ってみたら、プレイヤーが弾いてる音がそのまま出てくる感じの、とても良い音になったんです。しかもそのギターは、何十年も前に買った3万円のオンボロで、弦も3年以上張り替えていない劣悪な状態。それでも素晴らしい音で録れてびっくりしました。その一方で、U87Aiのような定番も、改めて使ってみるとキャパシティの広さが半端じゃない、抜群のマイクです。それに、テレビなどでボーカルのレコーディング風景と称した場面には必ず登場するこのマイクで歌ってもらうというのも、ボーカリストに対する演出要素としてすごく大事だと思うんです。これもスタジオのファンタジーというか、夢の部分ですね。マイクスタンドも、ENHANCED AUDIO Revelatorという重量級のスタンドを2ペア用意しています。
ーーマイクで録るということに関連して、ギターのアンプ録りを行うシステムも充実しているようですね。
日暮:ボーカル録りだけのブースなんてもったいないと思って、このサイズではありえないくらい、8系統のマイク入力を用意しています。リアンプ用にも4系統あって、4台のアンプを同時に鳴らすこともできます。たかだか3畳くらいのブースにどうしてそこまで必要なのかというと、利便性もあるんですけど、例えばアンプ1台にSHURE SM57を1本立てて終わりだったら、ライン録りとあまり変わらないじゃないですか。でもここでは、1個のユニットにオンマイクでダイナミックマイクを4本立てて、ちょっと離してリボンマイクを立てて、さらにアンビエンス用にステレオで立てるというのが、このサイズ感で一度にできる。それを、決め打ちで録るんじゃなく曖昧なまま録っておいて、後で取捨選択できるわけです。
ーー先ほどのボーカルレコーディングの話と同じですね。
日暮:結果としてすごく面白いのが、基本的にすべての組み合わせで正解が出るんです。確実に80点以上が出る。その中で、好みのサウンドだったり、こっちの方がより良いよねっていうのを選べばいい。それは、スタジオとしてのベースをしっかり作った上で、しっかりした機材を揃えているから。
玖島:音響的に計算されたプロポーションの部屋があって、電源やケーブル、マイク、プリアンプなど全部が合格点のところからスタートしていれば、何をしても大丈夫ということなんですよね。
日暮:そこそこの部屋でそこそこの機材だと、いくらコストパフォーマンスが良くてもスイートスポットが狭くて、そこに寄せるだけで疲れてしまう。でも、ここでは極端な話、適当に機材を選んで適当にマイクを立てても、それを狙って録ったかのような良い音がする。だから悩まなくていいし、機材のセレクションも楽しくなって、テンションが上がって、好循環でレコーディングを進められるんです。
ーー日暮さん自身が使うだけでなく、外部への貸し出しも行うスタジオとしては、とても大きな強みと言えますね。
日暮:あと、スタジオの使い勝手や居心地に関しては、現役のPAエンジニアでありながら、ライブハウスの音響設計や施工もやっている玖島さんのアイディアが随所に活きています。
玖島:僕の本職はPAで、レコーディングは2〜3年に1本あるかないかくらいなので、僕の中でレコーディングスタジオというのは、決して足を踏み入れやすい場所ではないんです。だからこそ、どうすれば長時間いられるかなとか、そういうことを先に考えました。例えばちょっと気分転換ができるロビーがあったらいいな、とか。
草階:玄関ホールと休憩スペースが一緒になった造りというのは、割と早い段階で決まっていましたね。そこにいろんなアメニティーがあって。
日暮:漫画が500冊以上ありますから(笑)。あとファミコンとか。そういうのも機材の1つというか、それらも含めてスタジオなんですよね。ミキシングルームもコンパクトではありますけど、バンドメンバー全員がTDに立ち会えるくらいの状況を作りたくて、エンジニアを含む7人の大人が快適に過ごせるようにしました。椅子そのものにもこだわって、エンジニアデスク用にはHERMAN MILLERのMirra Chair、ディレクターズデスク用には同じくHERMAN MILLERのSayl Chairを2つ用意しています。
ーーこのサイズのスタジオで、ディレクターズデスクがあるのも良いですね。
日暮:ディレクターズデスクは大事なので、絶対に入れたいと思っていました。最初は大きなレコーディングスタジオみたいに、ディレクターズデスクの下にアウトボードを収納するという案もあったんですけど、奥行きの関係でそれは諦めました。その代わり、エンジニアデスクの横にラックを置いてスライドさせるというアイディアが生まれたんです。
ーーインテリアの配色も見事で、薄いクリーム色の壁と白の天井に、グリーンの差し色が落ち着いた印象を与えています。
日暮:僕はけっこう占いを信じるタイプで、ラッキーカラーが緑と赤なんです。なので、自分の城を作るにあたり、差し色は絶対に緑と赤でいきたいと思って、長時間過ごすスタジオの中は緑、ロビーと玄関周りは赤を使っています。それぞれの差し色を統一することで、物がたくさんあってもゴチャゴチャして見えないというか、圧迫感や雑多な感じを減らせると思ったんです。どうせお金をかけるなら素敵に仕上げたかったので、清潔感と居心地の良さにはこだわりました。
ーーでは、あえてこのスタジオの欠点を挙げるとしたら?
日暮:物理的に許されるなら、もう少し広い方がいいなと思いますし、可能ならドラムも録れた方がいいというのは正直なところです。でも、それができるスタジオを造ったところで、請け負うセッション全体の中でドラム録りの割合ってどのくらいあるのかと考えると、ドラムを録るセッションが入ったらそこだけ外で録ってくるという感覚でいいんじゃないかと思うんです。それに大きなスタジオって、作業の大小に関わらずランニングコストは同じなので、割に合わないんですよね。かと言って削ぎ落としすぎると、夢も面白味もないスタジオになってしまう。そういう意味では、今のところ一番良い落としどころじゃないかなと勝手に思っています。それに、もっと広いスタジオだったら今のような発想に行かなかったと思うんです。
玖島:造る前に、このスタジオの売りを何にしようかってさんざん話したけど、そういうこともなかったかもしれないし、工夫もしなかっただろうね。
日暮:もっと没個性な、まあまあのスタジオになっていたかもしれません。ここは立地が良いわけでもないし、スタジオのサイズ感もありふれていて、ドラムが録れないという制約もある。そこで何を売りにしようって考えたときに、機材を増やすことでいろんな選択肢を提供しようと。小規模なスタジオではそれが得られないんです。この機材しか使えないっていう圧倒的な縛りがあって、あるものでやるしかない。あと、実は大きいスタジオでも選べる幅が広いわけではなくて、SSLが何十chあっても同じHAが並んでいるだけですから、サウンドのバリエーションとしては少ないんですよね。でもこのスタジオは、バリエーションに関しては半端ない量がある。
ーー「小さいスタジオでもここまでできる」ではなく、小さいスタジオだというところを出発点にして発想を広げていったわけですね。
日暮:昨今のスタジオの多くがダウンサイジングしている中で、ここはネガティブなダウンサイジングじゃなくて、かつてのスタジオの良い部分だけを抽出したらこうなりました、というイメージ。あとは本当に、プライベートスタジオとして自分が使うだけではもったいないというのが正直あって。せっかくだから外部にも貸し出して、この環境をもっと使ってほしいなと。90年代までのキラキラしたお金のかかっているレコーディング環境を知らない世代の人たちも、うちのスタジオを使ってそういうのを体感してほしいんです。写真でしか見たことがなかった機材や、ディスプレイ上のプラグインでしか見たことのない機材を実際に触って、本当はこういう音がする、こんなに素敵な世界があるんだということも知ってほしい。
玖島:そういう時期になったんじゃないですかね。僕たちの世代が知っている商業用のスタジオがあって、次にパソコンで録音する時代になって、プラグインが発達してアウトボードがなくなった。今の若い世代はそこしか知らないんです。でも我々は、本当はこういうものだということを知っている。それをこのサイズ感のスタジオで確認できるというのはすごいことだと思います。そういう意味で、ここは今後小さなスタジオを造る上で、1つのモデルになるんじゃないでしょうか。
日暮:自分でエンジニアリングもこなすアーティストが増えて、仕事場を追われてしまったエンジニアもけっこう多いので、そういう方々にとってのハブ的なポジションになれたらいいなという思いもあります。やっぱりセルフエンジニアじゃなくて、専門のエンジニアが手がける音作りの素敵さも知ってほしいので、そういう場を提供して紐付けをしていく。そこでレコーディングというものがもっと夢のある素敵なものだということを伝えていければと思います。
草階:日暮さんのスタジオは、間取りや規模などの条件の他、音響的な条件などの基本方針は早い段階で決まりました。スタジオ造りは基本方針が本当に大事で、そこがぶれると良いスタジオはできません。ただ日暮さんの場合、その基本方針が決まってから先がとても大変だったのですが(笑)けれども様々な要望に対して、難しいけれどもチャレンジしてみたい、と思わせてくれるものがあったんですね。それは日暮さんの遊び心だったり純粋さみたいなものに惹かれたのだと思います。クライアントのそうした思いに対して我々も共感して、はじめて良い仕事ができるのだと感じます。
日暮:ほとんど人脈とアイディアで成立しているスタジオです。だから共同作業ですよね。協力してくださった方々には本当に感謝しています。
(インタビュー/文:西本 勲)
copyright(c) Open Studio